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「理事は総会で議案に反対できるか」~『マンション学』第49号コラム記事に関連して~

「理事は総会で議案に反対できるか」
~『マンション学』第49号コラム記事に関連して~

『マンション学』第49号のコラムに「マンション管理の急所『物事を決める』ことの意味を考える」との記事が載った。

このコラムは初めに、理事会で議案に反対した理事が総会で決定した大規模修繕工事の実施に従わず、玄関ドアをしめて工事会社の人が室内に入るのを妨害したというケースが書かれている。何のためにこんな総会で決まったことに従わない非常識な理事の話を書くのだろうと読んでいくと、「理事は総会で議案に反対できるか」という文章の批判のためにこの話を思い出したというのである。

重要部分が欠落、文意が正反対に

この表題の文章は、コラムでは名指しこそしてはいないが、NPO日住協が「論説委員会」名で昨年6月の「アメニティ(集合住宅管理新聞)」紙に載せた「論談」記事のことである。驚いたのは、「論談」記事が、その最後に「『議案』が可決された場合には、理事はもちろん反対した者もその決議に拘束されるということになるということである」と明示しているのに、コラムは決まった決議の実行を妨害している理事の話を、「論談」の主張と同一視して書いていることである。コラムは、「論談」記事の「要約」を載せているが、肝心の上記下線部分が欠落している。その結果、われわれの見解が読者に全く正反対に伝わるものとなっている。

そこで、論説委員会としては、読者への誤解をとくため、『マンション学』のスペースをいただいて、記事の真意をお伝えするとともに、あらためて「理事は、なぜ総会で反対することが許されるか」について、当該「論談」記事の内容を敷衍して説明することとした。

総会で討議する目的はなにか

区分所有法は管理組合の意思決定において、基本的には集会主義をとっている。そのためまず、最高意思決定機関としての総会の役割のそもそも論を考えてみたい。

民主主義は最終的には、多数決原理である。しかし、最終的にはそういえても、それだけでは不十分である。決議、決定をする前には、「組織の主権者」である構成員すべてが自由な立場で討論し、自分の意見も十分にのべ、相手の意見もよく聞くことが必要である。その結果あいまいだった自分の意見がまとまることもあれば、相手の意見に説得されて自分の見解を変えることもある。もちろん、自分の意見で相手を説得することもできる。あらゆる討議において、討議前と討議後とで誰も絶対に意見を変えないということが前提であったら、そもそも討議をおこなうことの意味はなくなってしまう。A案,B案と違う見解をめぐって討論し、A案が圧倒的によいとなる場合もあれば、いくぶんかB案寄りに修正を加えるのがよいとなることもある。また、それをこえて討論のなかから新たなC案が登場して満場の支持をうけることもある。討議の結果、理事会で議案に賛成した理事といえども総会で反対意見に納得すれば、一組合員として反対に意見を変更することが可能である。そういうことが可能だからこそ、総会での討議の意義があるのであって、理事会の提案内容を説得して、何が何でも組合員に賛成させ、総会を通過させることだけが総会の目的ではない。一方通行の考え方でなく、双方向の働きかけが求められるのである。

現実の管理組合では、委任状や議決権行使書が用いられるために、本来の集会主義の機能や効用が十分に発揮されにくい実情にあることはたしかである。だがそのなかでも、実質的な討議が行なわれている管理組合がいくつも存在している。いろいろ工夫と努力を重ねれば可能だとわれわれは考えている。

もちろん、いったん総会という最高意思決定機関で十分討議のうえに決定された事項については、全構成員が協力してその実行に当たることが当然である。理事がその先頭にたつべきことはいうまでもない。つまり、総会での最終意思決定の前における自由な討論と、決定後の全構成員による実行責任とを明確に区別することが必要である。

理事の二つの任務

マンション管理組合の理事は、執行部として総会の決定を忠実に執行する義務を持つ。同時に、標準管理規約も示しているように、業務方針や予算案などの議案を作成、総会に提案する任務をもっている。そして後者の議案については、総会の承認を受けなければ先走って実行するわけにはいかない。実際の場面では、理事会が独断で業務をすすめる例も多いが、本来あくまでも最高意思決定機関たる総会の決議がなく、実行に着手することは許されないのである。

「理事が総会で反対発言できる」ことについては、さらに別の角度からみても当然である。マンション管理組合の理事会は、普通は同じような意見、見解の持ち主が集まっている場合が多い。しかし、建替え派と再生派だとか、ペット禁止派とペット解禁派、管理費値上げ賛成派と反対派だとかいうふうにかなり重大な問題で、もともと違う見解の持ち主が同じ理事会の理事に選出されることがありうる。そういう場合に、議案に反対でも理事だけは「総会で賛成」が義務付けられるとしたら、それがキャスティングボートになったばあい、組合員(投票参加者)の多数が反対でも可決されることになってしまう。例えば組合員7人、そのうち理事3人で議決権はいずれも同一の場合、普通決議で理事会は議案を2対1で決め、理事以外の組合員の賛否が1対3とすると、実際の組合員の賛否は3対4で否決されるはずなのに、理事である組合員が反対できない場合には4対3で可決ということになる。

さらに旧地主などが議決権の過半数を持っていても、理事にまつりあげて理事会で少数に追い込めば(理事の採決では頭数だけが問題だから)、議決権の多数さえ抑え込むことが可能になってしまう。こんなことは区分所有法が許すはずがない。

なおコラムは、「理事は総会で議案に反対できるか」との相談に断定的に答えたとして驚いている。「できるか」「できないか」という原理の問題にあいまいに答えたら、それこそおかしい。いくつもの選択肢が可能なケースでは、最終決定は相談者である管理組合が行なうことだが、相談をうけるわれわれも「元々正解が極めて少ない」などと放り出すのではなく、何とか正解に少しでも近いアドバイスのために日夜努力していることを付け加えておきたい。

注:マンション学

一般社団法人日本マンション学会が、年に数回発行する学会誌。「論談」が指摘している文章は、論文ではなく、「コラム」欄に掲載された。


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