マンションコミュニティ研究会
代表 廣田 信子
1.はじめに
●マンションはコミュニティ育ちにくい?
- マンションは無関心の集合体でコミュニティ形成が難しいといわれる
- 地域社会においては、自治会加入率が低い、防災訓練参加しない等、マンションの存在がコミュニティ形成の阻害要因に挙げられることも少なくない
●震災で見直されたコミュニティの重要性
- 東日本大震災では、マンション内においても、地域との関わりでも、改めてコミュニティの重要性を実感したマンション住人も多い
- この体験の記憶が薄れないうちに、防災とコミュ二ティ形成について真剣に考え、できることから始めることがたいへん重要
2.マンションコミュニティの現状
(1)居住者の状況
●永住意識の高まりで高齢化、高齢単身世帯増
- 平成22年国勢調査→65歳以上は2,929万3千人(23.1%←前回20.1%)
- 高齢単身世帯の増加は顕著→高齢者世帯における単身世帯の割合は1985年23.0%
→2005年28.5%→2025年35.4%と推定 - マンションでも、永住意識が高まり、マンションを終の棲家と考える人が増加
《平成20年度マンション総合調査の結果》
○永住意識を持つ人の割合は49.9%
5年ごとの調査の度に増加(31.0% →39.0% →43.7% →49.9%)
- 子供が独立、配偶者を亡くし、高齢単身世帯となる
- 利便性や暮らしやすさから、高齢になってから戸建住宅を引き払ってマンションに移り住むパターンも増加
●孤独死
- 高齢単身世帯の増加→孤独死が大きな社会問題に(マンションでも避けられない)
- UR都市機構の孤独死の実態調査→孤独死件数は10年前の3.2倍、68%が男性
- 高齢者の生活実態に関する意識調査(内閣府)
→「近隣との付き合いはない」男性高齢単身世帯24.3%(世帯全体の2倍以上)
↓ - 職場を離れた男性が配偶者を失うと、近隣との関係が切れ孤立しやすい
●近隣とのつながり
- 国民生活白書(2007年)→「挨拶程度以下の近所付き合いしかせず、地域活動に全く参加していない人」が20.8%
→近隣との「つながり」を持たない世帯が2割いるのが今の社会
(2)近隣の「つながり」の希薄化の背景
1)人の意識の変化
●国民生活白書(2007)に見える意識の変化
- 近隣関係で「何かにつけ相談したり、助け合えるような付き合いをしたい」
34.5%(1973年) →19.6%(2003年) - 「会ったときに挨拶する程度」 15.1%(1973年) →25.2%(2003年)
●セキュリティ、プライバシー意識と個人情報保護法
- 近年の社会不安 →居住者のセキュリティ、プライバシー意識は急速に高まる
→表札を出さないこともめずらしくない状況 - 個人情報保護法制定(平成15年)がその傾向に拍車
→マンションにおける居住者名簿の作成を難しくしている現状
2)家族形態の変化
●単身世帯の増加、世帯人数の減少
- 平均世帯人数 3.2人(1985年) →2.6人(2005年)
- 未婚率(40~44歳) 男性22%、女性12%
●人とつながるチャンネルの減少
- 人とのつながりは、家族の数が増えるほどチャンネルが多くなる
- 仕事中心の独身者は近隣と係わりを持つパイプは極めて細い
- 高齢になってから住みなれた地域を離れマンションに移り住んだ高齢者
→近隣の若い家族と接点を持てずに孤立する事例も
3)社会状況の変化
●職住分離・共働き増加
- 夫は朝早くから夜遅くまで働きに出ていて地域に不在
- 以前は、地域に子供と残っている主婦がコミュニティ形成の担い手であった
→近年の女性の社会進出でその状況も変化
<専業主婦世帯 対 共働き世帯>
1980年は 6.4対3.6 → 2008年は 4.5対5.5
↓
- 地域にいる時間が少なければ当然、ご近所と顔を合わせたり、活動に参加する機会も減少し、「つながり」は築きにくくなる
●発災時の在宅状況は震災対応に大きく影響
- 今回の震災は、発災時刻が日中 →交通機関がストップし、役員がほとんど不在で、翌日まで連絡が取れなかったというマンションも少なくない
↓ - 自営業等で地域で仕事をしている人、定年退職後の人が多いマンションと、ほとんどがサラリーマン層というマンションでは、初期対応に大きく差が
3.マンション管理における「コミュニティ」
(1)標準管理規約とマンション管理標準指針
●標準管理規約
- 平成16年の標準管理規約改正で、第32条(業務)に「地域コミュニティにも配慮した居住者間のコミュニティ形成」が加わる
→催事の開催費用や町内会出席の費用等が管理費の使途に - コメント→「コミュニティ形成は、日常的なトラブルの未然防止や大規模修繕工事等の円滑な実施などに資するものであり、マンションの適正管理を主体的に実施する管理組合にとって、必要な業務である」
●マンション管理標準指針
- 「マンション管理標準指針」(平成17年)
→マンションを適切に維持管理していくために必要な重要事項に「コミュニティ形成活動」を挙げ、「催事等のコミュニティ形成活動の年間計画を作成し、これに基づき実施している」ことを標準的対応に
(2)管理組合のコミュニティ形成の現状
●催事まで手が回らないマンション
- 「コミュニティ形成活動」=「お祭り等の催事を計画し実行」が役員の仕事に
↓ - 建物の維持管理、日常管理だけで手一杯なのに、とてもお祭りまで手がまわらない
- まじめに取り組み過ぎて理事長が管理組合の中で浮いてしまったという事例も
↓ - 中心となる人材がいないと、計画的な催事の実施はかなりハードルが高い
- 「つながり」をつくるための催事実施は、役員にも居住者にも負担が大きい
●コミュニティ形成に力を入れるマンション
- 一方、大型マンション等で、お祭りやサークル活動が盛んなところもある
- →しっかりした防災組織、高齢者の見守り等が自主的に行われているケースも
↓ - コミュニティがしっかりしているマンションは、市場でも高く評価されるように
●どこまで誰がするかでトラブルも
- 管理組合と自治会、各サークル等で、役割分担、費用分担等のトラブルも
(3)地域(自治会・町内会等)とのかかわり
●地域の自治会・町内会の一員
- 中小規模のマンションは地域に元からある自治会・町内会に属するのが一般的
↓しかし - 入会は各個人の自由意志→入会率、地域の活動への参加率が低い等が問題とされる
- 分譲時に全員参加が条件→その会費の管理費からの支出が問題となるケースも
- オートロックマンションは、高齢者や児童へ民生委員等の目が届きにくい
●1マンションに1自治会
- 大型団地等では、1マンションに管理組合と自治会が並存する場合が多い
→実態としては、- 両者がまったく別組織、
- 管理組合の一部に自治会を持つ、
- 別組組織だが費用は管理組合が負担
等様々な形態がある
●自治会が無く管理組合にコミュニティ委員会等
- 近年の大型超高層マンション等では、自治会を持たず、管理組合にコミュニティ委員会を置いているものもある
- サークル活動、イベント開催等が中心で、当初、ディベロッパー・管理会社の支援がある
→支援がなくなっても、順調に自主活動として定着するかは課題
●複数マンションの協議会等
- マンションの多い地域では、防災等でマンションが連携する動きもある
- 超高層マンションが数棟建つ地域では、協議会地域全体のコミュニティ形成の動きもある(開発時からの仕掛け)
(4)マンションのコミュニティ活動の事例
●楽しみを共有する行事を実施
- イベント実施
祭り、運動会、文化祭、お花見、遠足、餅つき大会、クリスマス会、ハロウィン - サークル活動
趣味のサークル、スポーツサークル、懇親サークル、文化サークル、子ども会活動、老人会活動、茶話会
●管理組合の行事を活用
- 総会を活用
議題の公募、議案書の戸別配布、階グループごとの座席・名札、終了後の懇親会 - 防災訓練を活用
階グループごとの作業、各戸安否確認訓練、防災ワークショップ、防災スタンプラリー、炊き出し訓練 - 建物診断を活用
建物探検団、建物点検スタンプラリー
●管理業務を活用
- 植栽管理・清掃
グリーンディー(草取り等)、クリーンデー(敷地内の清掃) - 小修繕クラブ
●つながりづくりの試み
- あいさつ運動
- フロアーでの会合・作業
役員決めの会合(年1回)、懇親会、リサイクル当番 - 回覧板
- カード・コミュニケーション(切手のいらない年賀状)
- 表札を出す運動
●一段上の活動
- 高齢者見守り・サロン活動
- 自主防災隊
4.マンションコミュニティの成り立ち
(1)「コミュニティ」の意味
●コミュニティには、二つの意味
- 地域を主体とする集合体(地域コミュニティ)
→一定の地域社会に居住し、共属感情をもつ人々の集まり、地域社会、共同体 - 目的や価値観等を共有する集合体
↓
- マンションコミュニティは1,2のミックス
→同じマンションという「地域」を主体としたコミュニティ かつ同時にマンションを維持管理、運営していくという共通の目的を持つ人の集まり
↓しかし - 組合員の考え方、興味、価値観は必ずしも同じではない
↓ - そこをどうつないでいくかが大きなテーマ
- 賃貸化進む →組合員と居住者のずれが大きくなる →別の工夫が必要
(2)人と人との「つながり」のでき方
●マンションおける3つの「つながり」
- ご近所という物理的関係
- 管理組合、自治会、防災会、祭りの実行委員会等の組織に属することによる関係
- 趣味やサークル、子供の友人関係等個人的な関係によるもの
●役員や趣味がきっかけに
- 2,3は、ある程度積極的に係わることが求められる
- 輪番制で役員 →コミュニティの一員として周りとつながるよいきっかけ
- 自分からきっかけがつくれない独居高齢者等 →趣味の会に誘う等の働き掛け
●最後の切札はご近所つながり
- それも人とうまくつながれない人もいる →最後はやはり①のご近所
↓ - どんなコミィニティにも二分のつながり(「孤独死を防ぐ」、「大災害時の助け合い」)は必要
- 「孤立しがちな人」ともつながり、いざというとき居住者全員に気を配れるようなコミュニティをつくるために、①のお隣同士という物理的に近い関係見直しを
↓ - 同じマンションで隣り合って暮らすことになったのも「縁」
- いざというとき頼りになるのはその場にいる「リアル」な隣人
↓ - 普段は、さらりとしていても、いざというときは、お隣が頼りになると思えるような関係は、人が安心して暮らすために不可欠
- 価値観、ライフスタイルが多様化している現代にふさわしいコミュニティの形を
5.震災で実感したこと
(1) 震災はその都度まったく異なる顔を持つ
●想定外の被害が発生する
- 東日本大震災での津波被害とこれほどまでの液状化被害はまさに想定外
- 下のような予想外も発生
- 避難場所である小学校が被災した
- 防災用貯水層が破断して使用不能になった
- 敷地が危険な状況で半数が避難中、夜間の計画停電が巡ってきた
●被害予想やハザードマップを過信しない
- 過去の震災から学び、被害予想やハザードマップを確認することは重要
↓しかし - 地震のメカニズムそのものも不明な点が多い
→ハザードマップ等を過信しないで、マンションで万一に備える姿勢も必要
(2)支援する側も被災する
●行政や管理会社も被災
- 東北では行政や管理会社も被災→書庫や機器が倒れ書類が散乱、電気を失い、通信が途絶え、家族や同僚の安否が不明な中での職務
- ・具体的には次のような困難が
- 停電でパソコンから必要情報が出せなかった
- ガソリンがなく応急危険度判定に行けなかった
- 管理会社が全車をタワー式駐車場に入れて会議中被災、そのまま車が2ヶ月出せなかった
- 津波で道路が分断、管理会社がマンションにたどり着いたのは5日後
●コミュニティ力で生き延びる覚悟
- 大震災では、皆が被災、行政も管理会社も例外ではない
→そこにいる者たちが助け合って生き延びるしかない状況になるとの覚悟も必要
↓ - コミュニティ力が問われる
(3)複合的なトラブルが起きる
●思わぬトラブルが発生
- 震災時には以下のように思わぬ事態も発生
- 地震では避難しないはずが、高層階で火災警報が →エレベーター停止で誤報との確認に手間取り、余震の中で住民は混乱
- 超高層マンションで自宅に留まるマニュアル →不安で階段で下りて来た人でエントランスがいっぱいに
- 停電で機械式駐車場停止、入庫できない車が溢れ通路を塞いでしまった
- 電気温水器からの漏水通報への対応に追われて安否確認に手が回らなかった
●高層階に戻れない人の対策
- マニュアルで震災時には自宅に留まるとしている超高層マンション
→緊急避難所を開設する等の準備はしていない
↓しかし - 余震や火災、停電、情報がない等の不安で人は下に降りてくる
- 一旦下りるとなかなか上には戻らない(戻れない)
↓ - 停電やエレベーター使用不能が長期に渡った場合を想定し、備える必要がある
- 共用スペースだけでなく下層階の住戸の協力を得ることも検討の対象に
●管理会社とトラブル対応の役割分担
- 長期間機械式駐車場が使用不能な場合の駐車対策が必要(通路を車両が塞ぐようなことになると極めて危険)
- 思わぬ火災が発生(誤報も)したり、漏水事故が多発することを想定し、管理会社との役割分担を明確にした対応マニュアルの検討が必要
(4)準備が機能しない
●使えるはずのものが使えない
- 震災用備品が使えなかった、マニュアル通りにはいかなかったという事例も
- 防災倉庫の中のものが崩れ、入り口引き戸を塞ぎ物資が出せなかった
- 発電機が、燃料が古い、燃料種類が合わない等で使用できなかった
- 緊急遮断弁で受水槽を確保するはずだったが弁が働かなかった
- 炊き出し用具と食料があっても、排水ができず炊き出しができなかった
- トランシーバーの使い方が分からなかった
- 防災倉庫が整理されておらず、必要なものを必要なときに出せなかった
- 震災時の掲示物フォーマット、現役員がその存在を知らず活用できなかった
- 役員の多くが不在で司令塔が機能せず何もできなかった
- 安否確認したが、確認できない2割に対して何もしなかった
●平時とリンクした誰もが担い手になれる防災体制を
- 普段使いなれていないものはいざというときに使えない、アクシデントも
- 管理組合で常に訓練して災害に備えている →現実には難しい
↓ - 普段から防災備品を行事等で使用することを習慣化する
- 日常使用するものを防災備品にする 等、実際に機能する体制を考えることも必要
- 多くの役員が不在、連絡も取れない、道路が寸断等でその状態が長期化することも
↓ - 残っている人で力を合わせ乗り切るしかない→誰もが担い手になれるような体制を
→コミュニティ形成が重要になる
●安否確認できない住戸をどうするか
- 居住者の安否確認に関しては、「無事」のカードを玄関に掲示する、リボンを入り口に巻く等の申し合わせをしている管理組合もある
↓しかし - 標示がなく、呼びかけても応答がない住戸の安否確認をどこまでするについて決めている管理組合はほとんどない
↓ - 緊急連絡先を届けてもらっていても電話が通じなければ確認しようもない
- バルコニー側から覗いたり、鍵を壊して中に入る等の決断は簡単ではない
↓ - その場面を想定し、対応を話し合ってみることから始める必要がある
(5)予想以上に災害弱者が生まれる
●普通の人が災害弱者に
- 身体が不自由な人、病人や介護が必要な高齢者のみが災害弱者ではない
- 乳幼児を抱えて給水車の長蛇の列にも並べなかった
- 高齢で腕力がなく、台車も使えず避難所から重い水が運べなかった
- 仮設トイレが危なくて高齢者には使用できず、親類の家に避難した
- 紙オムツやミルクが買えない、哺乳瓶が洗えない、お風呂に入れられない状況でパニックに
●名簿は現実に追いつかないー自主的な近隣への声掛けと助け合いが重要
- 乳幼児、高齢者や障害者等の災害弱者に要支援者として届け出てもらう方法をとっている管理組合もある
↓しかし - 実際は、普段自分が弱者だとの自覚をしていない人が弱者となる可能性も高い
- 最近子供が生まれたばかり、急な怪我等、名簿が直近の状況に追いついてない
↓ - 近隣への声掛けや助け合いが大きな力に
- 普段から、いざというときは助け合える関係を作っておくことが身を助ける
●管理組合による全戸声掛けと助け合う風土づくり
- 管理組合で全戸へ声掛け、困っている状況を把握して、サポートする体制が必要
- できるだけ多くの居住者が自主的にサポート側に手を上げるような風土が必要
- 中学生等は、いざというとき高齢者を助ける大きな力となる
↓ - 子供も含めた、助け合う風土づくりが重要になる
(6)同マンション、団地でも被害状況は異なる
●被害状況、恐怖感は階や棟で異なる
- 今回の地震の揺れ具合は、同じマンション、団地でも、階数や建物の方向によってかなり異なった
→感じる恐怖感、事態の捉え方も異なる
- 揺れの激しさに倒れる恐怖を感じ、思わず共用廊下に飛び出した。
- 一人でいるのが恐くて超高層から階段で1階に下り、エレベーターが動いても自宅に戻れなかった
- 最上階の自分の住戸の揺れは激しく備品もかなり損傷したが、1階の理事長宅は被害なしということで、なかなか話が通じなかった
- 自分の棟はほとんど被害がなかったが、同じ団地でも隣の棟の被害がひどかったことを知ったのはかなり後で、何もできなかった
●同フロアーで声を掛け助け合う
- 建物が倒れるのではという恐怖と、室内の損傷は体験者に大きなショックを
- 特に一人でいる時の不安感は大きい
↓ - まずは、同じフロアーの隣近所で声を掛け合い不安感を消し助け合うことが重要
●全体の被害状況を把握する
- 自分自身が体験しないと、周辺に思いがいたらず対応が遅れる
↓ - 役員は、一部の体験で全体を判断せず、マンション、団地内の状況がどうだったのかを聞き取り調査して全体の把握を
6.震災体験から学んだこと
(1)管理組合にしかできない重要な仕事がある
●被災後の体制
- 防災組織が確立している管理組合の方が少ない
- 被災後どういう体制で対応したかは、マンションによって異なる
- 管理組合が単独、
- 自治会が中心、
- 管理組合と自治会が共同、
- 別に組織された防災委員会が中心、
- 管理会社任せ
等
↓しかし - 建物や敷地を管理する責任と権限を有する管理組合にしかできないことがある
●管理組合の役割の大きさと困難
- 管理組合→建物や設備、敷地の被災状況
応急措置で安全確保
その後の対応を判断して、調査や工事を手配
↓ - たまたま管理組合の現理事がその能力や判断力を持っていることの方がまれ
- 理事に専門的知識が無く判断ができなかった
- 管理会社の見積提示のまま補修工事を発注、後から高過ぎると分かった
- 自治会が行政との交渉窓口になって、敷地や設備に関することを、権限を有する管理組合に事前相談が無く決め問題となった
- マンション内の復旧工事で理事は手一杯で、居住者からの被害申し出や問い合わせ対応まで手が回らず、自治会に協力依頼した
- 正式な理事会の開催もできず、理事長判断を求められる場合があった
- オイル漏れが危険な状況で至急対処しなければならないが、理事長と連絡が取れず管理会社が判断に困った
●緊急対応の判断と合意形成への対応
- 防災マニュアル →震災後の建物や設備の被害状況の把握と安全確保の具体的な対処方法、緊急対応の合意形成に関する部分が抜けている
- どんなに優秀な自主防災隊があっても、ここは管理組合が対応しなければならない
- 正規の総会、理事会手続きをとれずに判断を求められることも
↓ - できるだけ組合員に情報提供をし、多くの知恵を得ながら進める努力が求められる
↓ - 自治会や防災会との役割分担を明確にする →理事会が管理組合固有の業務に集中するためにも、多くの居住者が参加する防災会等の設置は必要
- 専門性と迅速性が求められる緊急時の業務対応のシミュレーションが必要
- 緊急時、被害状況の確認や工事の発注 →マンション居住者の中の専門家の活用も →日頃の付き合いの中で得る、居住者が持っているスキル情報も有効
(2)いざというとき頼りになるのは近隣情報
●名簿が万能ではない
- 災害時の居住者名簿、要支援者名簿の必要性は常に語られている
↓しかし - 今回の体験で必ずしもそのような情報が名簿として管理組合に一元管理していなくとも安否確認が可能だったと聞く
- 名簿より近隣情報が大変役立った
- 役員不在で金庫の中の名簿を出してなんて言っている場合じゃない
→とにかく近隣に声を掛け合い、そこにいる人が助け合って、閉じ込められた人を、ドアをバールでこじ開けたり、避難梯子を使い助け出した - 名簿は最新の情報じゃないから信用できないし、電話が通じないのだから緊急連絡先も役に立たない。近隣の口コミ情報が安否確認に役立った
●ご近所に知り合いがいることが身を助ける
- 近隣情報とは、「お隣のご夫婦は、今は病院に行っている時間帯だ」
「ここの子はA幼稚園だからBさんに聞くと連絡先が分かる」
・・・といった普段何らかの付き合いがある近隣の人が持つ生きた情報 - 日ごろ全居住者と接する機会がある管理員が持っている情報も大きい
↓ - いざというときは、こういう情報を集めて安否確認をすることになる
↓ - 社会で暮らす以上、ご近所に家族の状況を知る人が誰か居ることは必要
→それがいざという時、自分自身の身を助ける
↓ - 近隣の信頼関係 →コミュニティへの信頼 →名簿の提出にも抵抗感が無くなる
(3)自助の徹底が重要
●できるだけ自宅で暮らせるための備えを
- 指定避難所にマンション住民の受け入れのキャパシティがない現状も見受ける
- 震災時、建物が構造的に危険でなければ、窮屈でプライバシーのない指定避難所で暮らすより、自宅で過ごす方が格段に生活の質は高い
↓ - 各住戸での必需品の備蓄が不可欠
- 自宅のスペース確保のために、家具や電気製品の転倒防止、ガラスの飛散防止を
- 近隣の互助も必要
●管理組合での備蓄には限界が
- 管理組合で水や食料、災害時トイレ等の備蓄にはスペース等の限度がある
- 賞味期限がある水、食料の在庫管理は並大抵ではない、費用もかかる
- 災害発生時の配布にも人手とエネルギーを要する
- エレベーターが止まった高層階の住民にとっては運搬も深刻な課題
↓ - 自宅に備えているのは心強い
- 日常使う水や缶詰、レトルト食品等を、一定数在庫しながらまわすのが合理的
- トイレも、自宅で暮らせるかどうかの重要なポイント→災害用トイレを各戸に
●ボランティアも自分の生活が確保できてこそ
- 被災時には、役員として、又はボランティアとして様々な仕事が発生
↓ - 自分や家族の安全や基本的な生活が確保できないと、それすらも難しくなる
- 家族の水の確保やトイレの心配をしていたのでは、他を助けることもできない
↓ - その意味でも自宅での備えは重要
(4)原始的方法とITが情報収集・伝達に有効
●情報収集・伝達は難しかった
- マンションの被災状況、復旧に関する情報は、何より知りたい情報
↓しかし - 情報は集めなければ向こうからはこない、状況は常に変化する
→正しい最新情報を入手し、いち早く居住者に伝えるのは難しかった
- 役員で全戸の安全確認に回ったので被害状況を把握でき、直後に一人で不安を抱えていた人にありがたかったと感謝された
- 漏水を起こさない、汚水を溢れさせないために確実に全戸に伝えなければならないことは、役員が手分けをして何度か全戸を回って直接伝えた
- 行政、地域の情報は、属しているサークルからのメーリングリストが役立った
- いち早くマンションの震災専用ブログを立ち上げた。対策本部や行政の情報、どこで物資が手に入るか、風呂等の生活情報も伝え、感謝された
●全戸を回れるマンションは心強い
- 結局、全戸を足で回るという原始的方式の情報収集、伝達が一番有効だった
↓ - いざというとき、マンションは足で情報収集・伝達が可能な居住形態である
- 全戸をまわると覚悟すれば、マンションという集住形態は心強い住まい方
↓ - そういった状況を想定して防災訓練を実施することが役立つ
●IT活用も有効 ―活用できない人のサポートを忘れずに
- インターネット利用は情報の収集でも伝達でも有効だったようだ
↓ - 刻一刻と変わる情報の収集、情報伝達には、メーリングリスト、ブログ、ツイッター、フェイスブック等ITの活用の検討も有効
- 避難中の人にも伝えることができる
- きめ細かい情報伝達は、緊急時の合意形成の透明性にも資する
↓ただし - ITを活用できない高齢者等の存在を忘れず、近隣でサポートすることが必要
(5)行政、地域とのつながりを見直す
●災害時の行政の体制にマンションはない
- 行政の防災対策は自治会を中心に組み立て、管理組合には直接情報が入らない
- 災害時の指定避難所には、マンション住民が入る余地の無い場合も
- 復旧工事について自治会の方に行政の連絡があり、敷地や建物を管理する責任がある管理組合にはないので、何かと行き違いがあった
- 指定避難所で、マンション住民は入れないと言われ、マンションの1階集会室に避難所を開設し、炊き出しを行った。しかし、指定避難所でないと、救援物資が届かず、交渉の上、ようやく物資が届くようになった
- 給水車が指定避難場所にしかこなくて、長蛇の列。1000戸規模のマンションには、受水層があり、そこに水を入れれば配給は、マンションでやるといっても、決まりだと行って中々実行せず、住民が不便な思いをした
●管理組合が把握しなければならない情報は多い
- 同じマンションで管理組合と自治会を有する場合は、両者の情報伝達をスムーズにしておくことが必要
- 行政、地元の自治会、町内会との日ごろの付き合いも重要
●マンションには災害時活用できる資源がある
- マンションには、集会室や受水槽、広場等震災時有効活用できる資源がある
- 管理員がいて、パソコン、コーピー機等があれば、事務局機能も発揮しやすい
↓ - 震災時には地域住民も受け入れて避難所としての役割を果たすことも可能
●マンションを防災計画に位置づけることも
- 地域全体の防災計画の中にマンションも位置づけることが有効だと思われる
↓ - 物事の決定、実施において管理組合の役割が大きいこと
- マンションは、地域にも役立つことを地域や行政に伝え、日頃から地域や行政とのパイプを持つことも必要
(6)最悪を想定したシミュレーションが必要
●ライフラインが止まるということ
- 排水ができない→炊き出し難しい、マンホール設置する防災トイレも不可
- 電気がない→放送設備、水の浄化装置使えない(非常用電源、自家発電にも限界)
↓ - いざというとき役に立ったのは、ほんとうに原始的な道具だったと聞く
●防災マニュアルは機能するか
- どんなに立派な防災組織も役員がマンションにいなければ機能しない
- 交通機関が断絶したら管理会社の助けも来ない
- 深夜、電気が途絶え、エレベーターが止まった危険な建物の中でどんな救助活動ができるだろうか
- 指定避難所には受け入れ態勢はあるか、マンション内を避難所にすることは可能か
↓ - 今回の震災で、今までの認識が甘かった、今の防災マニュアルではいざという時対応できないと感じた管理組合も多かった
●最悪を想定のシミュレーションから防災マニュアル構築を
- 一度最悪の事態を想定したシミュレーションをすることが必要
<最悪想定とは>
- すべてのライフラインを失った場合
- 支援物資がこない場合
- 居住が不可能になった場合
- 深夜に発災、暗がりでの救助活動の場合
- 役員不在の場合
- 管理員不在、管理会社が被災した場合
↓
- 居住者参加の防災ワークショップを開催、居住者が問題点を共有することが有効
- そこから、各自がすべきこと、管理組合で取組むことを構築する
→本当に強い防災マニュアルができる
●震災を前提の防災訓練を
- 多くの場合、火災に対する消防訓練が中心で、そこに震災訓練を付け足し
↓しかし - 火災発生時と震災発生時では対応が異なる
- 火災発生時 →いち早く避難、防火区画を確保、施錠せずに避難
- 地震発生時 →自宅に留まる、開口部を確保、避難時は避難場所を明記し施錠
↓ - 震災に特化した防災訓練の実施を
7.防災とコミュニティ
(1)防災からコミュニティを育む
●人と人とがつながる「きっかけ」づくりの工夫
- ・近隣が自然にあいさつを交わし、さりげなく気を配り、情報を伝え合える関係を構築することがいざというときとても大きな意味を持つ
↓ - ・特別の催事でなくとも、人と人とがつながる「きっかけ」づくりは可能
→フロアーや階段ごとの懇親会、回覧板、あいさつカードやカード - 総会議案書を高齢世帯に手渡しで届ける
●防災はコミュニティを育む最高の「きっかけ」
- 防災ワークショップ、や各戸を安否確認で回る防災訓練は、人と人が親しくなるきっかけにもなる
- 工夫次第でみんなが楽しめる立派なコミュニティ行事にもなる
↓ - 防災という誰もが無関心でいられない共通の目標を持つことが、コミュニティ形成にも大きく役立つ
(2)集まって住む価値を再認識する
●マンションは心強い住まい方
- 独立性が高い居住空間なのに壁ひとつ隔ててすぐお隣に人が暮らす
↓ - マンションは、プライバシーが守られながら、いざというとき5秒でお隣という本来は非常に安心な住まい方のはず
- マンション住民 →適度な距離が保障され安心して気持ちよく付き合えるなら、いざというときは近隣の助けをするつもりも、助けてもらいたいという気持ちもある
- 今回の震災でほんとうにいざという時頼りになるのは隣人だと随所で確認
- 同じフロアーの方のお宅に集まって励ましあって余震を凌いだという話もある
●意識を変え一歩を踏み出せるかが価値を決める
- 震災時、周りが気になってドアの外に出たが、普段あまり付き合いがない近隣に声を掛ける勇気がなく、そのまま自宅に戻った
↓ - 後から皆心細い思いをしていたと知った →これから関係作づくりの一歩を
- マンションは、面倒なものでも無関心の集合体でもなく、人とつながっている安心感を得られるとても価値ある住まい方で、自分もその構成員だと・・・住民の意識が変われば、マンションはソフトの面でも震災に強い安心な住まいとしての価値を持つ
★無理をせずできる方法で、できる人が、できることから始めるのがコミュニティ形成のポイント
★強制や義務ではなく、たのしく参加できる工夫を
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